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今年読んだ本3

「吉田様との登山が決ってからは、その準備に余念がありませんでした。
出発の前夜、コタツに当たりながら、「こうして暖かいコタツにあたっていると、山へ行くのが大義なような気もする」と一人言のように申しました。明日の出発を楽しんで張り切っている、とばかり思っていた私は驚いて彼の顔を見ました。
彼は子供の顔を見ながらしんみりとしていました。
私は、「やめられたら?」といいましたが、「友達が僕の行くのを待っている」と申しました。
悲しい運命が待っていたのです。



出発の12月29日、お正月用の餅を二十ケ程包んで、こっそりと(要らぬといっていましたので)荷物の中に入れておきました。
会社から帰ると時間がないらしく、せかせかと荷物を調べ、入れた餅に気が付くと出してしまいました。
母に抱かれた登志子のホッペをちょっとつつきながら、「帰る頃には目が見える様になっているかなあ」「お母さん留守中お願いします」といいながら出かけました。
あの時の餅を無理にでも入れておけばよかったと、今だに思われてなりません。
途中まで見送っての帰り道、涙が出て仕方がありませんでした。
一週間位で帰るとわかっていながら、何ともいえぬ淋しい気持ちでした。
あの時が、彼との、父と娘との、永久の別れになってしまいまし。」



「加藤文太郎の追憶」より
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by tk2000kt | 2011-12-13 21:16 | 山登り